京極夏彦の「今昔百鬼拾遺」シリーズ [読書]
3冊全部読んだので、随分更新に間が空いてしまいました。
さて、今昔百鬼拾遺シリーズは京極先生の諸作品のスピンアウト的作品群https://kadobun.jp/feature/interview/174.html。←作品の経緯はここ読んでね
京極作品のヒーローであらせられる中禅寺秋彦の妹、中禅寺敦子と「絡新婦の理」の主要キャストであった呉美由紀の二人が事件を解決していくというストーリー。
兄譲りの冷静沈着な敦子の推理とお子様を自称、いささか考えが浅いけど勢いのある美由紀の二人のコンビはなかなか良い。京極シリーズではお馴染みのサブキャラがたくさん登場し物語を彩ってくれる。
話の内容自体はそれほど複雑とはいえないものの、結末に至るまでのプロセスが面白い。圧巻だったのは女学生が語る「河童談義」(今昔百鬼拾遺-河童)。最初の100ページ近くを割いて、美由紀とその同級生が語る河童にまつわる会話を展開、いつ終わるんだよ!と思いつつニヤニヤしながら読んでしまいました。
3冊連続で読むことをお勧めします。
堂場瞬一の「闇の叫び」 [読書]
このシリーズ、堂場先生のシリーズ作品の中で最もお気に入り。主人公大友がなんとも良い。シリーズも9作目の本書は息子優斗の高校進学とともに終わり?・・・事件解決の余韻にひたって読んでいた私にとっては衝撃のラスト(ネタばれ?)。
今回の作品は親子関係が主題。暗い面にフォーカスがあたって正直かなりつらい展開ながら現実にありそうな展開。犯人の人生、心情を思いつつ、刑事である前に一人の親として犯人に向き合った大友は迫力がありました。
息子が親元を離れることで、本作の基本設定が崩れるわけで、やはりシリーズ完結なのか?読後はそれが非常に気になりつつも何とか次回作、もしくは他のシリーズへのゲスト出演も期待したいと思っているのですが無理でしょうか?
佐々木譲の「廃墟に乞う」 [読書]
今更という感じ。直木賞受賞作品です。
デジャブ感に襲われながら読みました。何回目?連作短編集で最初の作品「オージー好みの村」は確かテレビドラマになったような気がします。
どなたが主役だったか忘れたのですが、原作のテイストとは別物に仕上がっていた印象があってちょっとがっかりした記憶があります。
淡々としつつ、緩やかにかつ確実に事件の本質に迫っていく感じがいい。ゆったりと読める感じで、心地よい作品です。休職中の刑事ということで、ガツガツしていない展開がそう思わせるのかもしれません。やはりリフレッシュは必要なのかも、読者にも。
佐々木裕一の「赤坂の達磨 公家武者 松平信平13」 [読書]
本作については、実在の人物が主人公、しかも五摂家の一つである鷹司家から武家になったという異色の経歴を持つ人物の小説ということもあって、いつかは読んでみたいと思っていました。
もっとも文庫書下ろし系の作品は人気があってなかなか第1巻を入手するのは難しい、ということで、たまたまあった13巻を手に取った次第。史実では徳川家光の正室となった姉を頼って江戸に下向したということですが、そのプチ情報だけで途中からでも十分に楽しめる作品でした。
内容はというと、まあ、ひと言でいえば「水戸黄門」ですな。もともと五摂家出身であるあるだけでなく、将軍の正室の弟であり、妻は紀州徳川家の娘・・・「将軍家所縁の方だ」というセリフで悪人たちは一度躊躇するも、「ええい、斬れ!斬れ!」と逆上し、結果、成敗される。ピンチ~という局面では忍の技を持った家臣、取り巻きが助けてくれる・・・
いわば痛快時代劇(作者の佐々木さんはテレビの痛快時代劇の大ファンであったそうな)の典型ともいえる構成で読者としては安心です。
かつての時代劇のヒーロー不在となった昨今。こうした新しいキャラでテレビ時代劇復権もあり得るかも。白い狩衣をきて、「麿は・・・」という主人公はちょっと変わっているけど新しいヒーローとして存在感があると思うのですがいかがでしょうか?
天野純希の「もののふの国」 [読書]
本書は「小説BOC」1-10号に連載された8作家による文芸競作企画「螺旋プロジェクト」の一つである。「海族」と「山族」の2つの種族の対立を描く、すべての作品に同じ「隠れキャラクター」を登場させる、任意で登場させられる共通アイテムが複数ある、の3つのルールのもと、吉田篤弘、朝井リョウ、伊坂幸太郎、乾ルカ、薬丸岳、澤田瞳子、大森兄弟の各氏が参加しているプロジェクトである。
天野先生の担当は中世から近代が担当?平将門、源頼朝、足利義満、明智光秀=天海僧正、豊臣秀吉、徳川家康、大塩平八郎、土方歳三、坂本竜馬、西郷隆盛らを主人公にした連作であり、すべてがつながっている?という設定となっている。
「もののふの国」のタイトルの通り、将門に始まる武士による世の中を作ってきた人々の栄枯の物語であり、西郷によって終息という壮大なストーリー。なぜ平家と源氏が戦ったのか?秀吉と家康の対立の背景にあったものは?
・・・螺旋プロジェクトのルールに照らし合わせれば納得!という展開にはなっているものの、肩ひじ張って考えずにSFチックに読めるという点で、かつての半村良先生の作品を彷彿とさせる内容になっている。
こうなったら「螺旋プロジェクト」の全作品を・・・と思いつつ、全部読むのは大変だ、こりゃ
タグ:螺旋プロジェクト
伊東潤の「敗者烈伝」 [読書]
日本の歴史、古代から幕末・明治まで、いわゆる敗者とされた人々の“烈伝”、評伝である。
蘇我入鹿から桐野利秋まで、それぞれの時代の勝者と対抗の立場にあった人=敗者の物語。少し間違えば勝者になったかもしれない人たち。歴史に「もしも」はないといわれるが、ちょっとしたきっかけや流れで勝者になれたかもしれない人々。
もっとも伊東先生に言わせれば、この敗者たちは負けるべくして負けた、敗者になったということらしい。実に厳しいご指摘、ごもっともと納得させられました・・・
歴史は勝者によってつくられる、ともいわれるが、これらの勝者によって今の日本が形づくられたともいえるわけで、負けるべくして負けた人たちが勝者になった場合、日本はどうなっていたのだろう?と思ったりもする。
敗者があってこその歴史。この視点、いろんな意味で大事にしたい。
木下昌輝の「天下一の軽口男」
どんな話かわからず手に取った本。ペラペラめくった限りでは御伽衆の話?と思いつつ読み進めたら、なんと今につながる落語の起源のことが書いてあるではありませんか!安楽庵策伝、鹿野武左衛門、露の五郎兵衛、そして主人公の米沢彦八・・・いずれも実在の人物の経歴と芸の成り立ちが紹介されています(小説ですけど)。
以前、桂文珍師匠が枕で落語の起源を話したことがありますが、そこで出た小咄が本書にも収録されておりました。仕方噺という現代落語の原型についても書かれている(江戸時代に完成したのでしょうか?)。
落語好きの私としては勉強になった次第です、んっん!。
タグ:落語
東野圭吾の「沈黙のパレード」 [読書]
ガリレオシリーズも回を重ねるごとに重くなってきました。長編作品として上梓されることになったらかとも思いますが、単にトリックやセンセーショナルな犯罪にフォーカスするのではなく、登場人物の背景や心情を深堀したシリーズになってきたような気がします。シリーズは完結したようですが、新参者、加賀恭一郎シリーズに通じるものがあると思います。
本作では犯人のキャラクターは憎んでも憎み切れない存在として描かれています。司法の手ではどうしようもない存在。昨今の現実の事件の犯人像とも被るような気がして気分はよくないのですが、こうした存在に対し、被害者家族およびその親友、仲間たちの思うところはいかばかりかと想像される展開。結局のところ偶然が生んだ悲劇ともいえる結末が待っているという展開ですが、もやもやした収束は読後感としては決してよくなかった作品となりました。自分に置き換えて考えれば当然の結果ともいえますが・・・
ギブソンギターをつま弾くシーンは福山雅治で映像化されたときのサービスカットでしょうか?気になります。
三浦しをんの「まほろ駅前狂騒曲」
文庫化を期待していたら随分読むのが遅くなってしまいました。多田と行天の関係性やいままでの登場人物等、読み始めはうる覚えだったのが、読み進むうちにだんだん明瞭、明解になり、すっかりはまってしまいました。
むーん、こういう本が好きなのだということを自覚しました。面白かった。
自分だけはまともな人、と多くの人は思いがちであり、それをベースに世の中をみると本書のような世界観にはまるのではないかと思うのですが、読者としては非常に心地よい。人に振り回されながら、日々、緊張感とともにメリハリのある日常を過ごせたらと思わせる。リア充を画にかいたような日常。ある種憧れます。
間引き運転を糾弾する老人たち、無農薬野菜を生産、販売する怪しげな団体、それを阻止しようとする街の有志(いずれも裏があり、一筋縄ではいかない人たち)が織りなす狂騒をバックグランドに行天の娘を預かるというメインストリーが違和感なくかみ合って物語として完成しています。
・・・とまあ理屈は抜きに面白いのでぜひ読んでみて!と薦めたくなる作品です。
天野純希の「雑賀のいくさ姫」 [読書]
天野先生といえば「風の谷の守り人」( 剣風の結衣 (集英社文庫) )でも少女が活躍する作品がありましたっけ。今回は座礁した南蛮船を接収、自らの船として世界の海で自由に生きることを夢見た雑賀党鈴木孫一の娘が主人公の話。村上水軍や島津の巴姫の誘いにのって九州侵攻をもくろむ倭寇の親玉、林鳳と戦うことになるというストーリー。
天野作品に限らず、"姫"様が主人公の場合、とにかく強く、決して負けないキャラクターが多く(読者もそれを期待している節がある)、本作もその期待に十分に応えています。混沌として先行きが見えない時代の気分にあって、こうした姫キャラが事態を打開してくれる!という話は時代が要請しているのかもしれません。
本作の登場人物、実在の人と架空の人が混在、(林鳳という倭寇の親玉は実在したらしい)その分、臨場感が増した作品になりました。
姫キャラ・・・嫌いではありません。