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五十嵐貴久の「命の砦」 [読書]
いやぁ~、気が付いたら2か月ぶりの更新です。昨年末からついこの間まで、年度末に向けた業務に追われまくっていたこともあり、ブログを更新する精神的余裕がありませんでした。まだまだ修行が足りないようで・・・
というわけで、久しぶりの読書感想文は、五十嵐貴久先生の「命の砦」です。
「 炎の塔 (祥伝社文庫)」「 波濤の城 (祥伝社文庫)」に続く消防士モノ、神谷夏美シリーズ三部作の最後作です・・・って本当にこれでシリーズ完結ですか?といいたいのは私だけでしょうか?
正直、三部作の中では、本書、「命の砦」が一番面白かったのですが(普段、新宿駅を利用していることもあり、身近だったということもあるのかも)、ぜひ、柳司令補の後を継ぐ存在として神谷を描いてほしいと思いました。
炎に立ち向かう消防士の描写に感動を覚えました。また、本書における災厄を引き越した主犯の動機は心情としては理解できることであり、かつ怒りを覚え、どうしようもないことに憤りを覚え、ある意味共感。そして、その主犯の怒りとは別のところで、複数の共犯者がネットを通じて集まり、犯罪に走ったこと。まさに「今」を描いていらっしゃる・・・新宿駅利用者としはリアルに恐怖を覚えました。あり得ないことはないと。
ぜひ、続編を!
伊坂幸太郎の「クジラアタマの王様」 [読書]
葉室麟他「決戦!新選組」 [読書]
ご存知?決戦シリーズ。新選組を題材に、葉室麟、門井慶喜、小松エメル、土橋章宏、天野純希、木下昌輝の各氏が筆を振るっています(プロの作家に筆を振るうという表現は当てはまる?)。
試衛館時代に集った近藤勇、土方歳三、井上源三郎、沖田総司、永倉新八、原田左之助、山南敬助ら、のちの新選組の中核となるメンバーについては、小説や劇画、映像の世界で幾度となく作品化されていますが、本書も新たなエピソードとして新選組の局面を映し出しています。
本書では、沖田、近藤、藤堂、永倉、斎藤、土方が主人公となって登場。それぞれの生涯が小気味よく?書かれていたような気がします。
決戦シリーズすべてに共通していると思うのですが、それぞれの時代、出来事ではバイプレーヤーの存在にあった人たちの当事者意識というか、行動が明らかになるという点で面白い。そういう意味でこのシリーズは今後も継続していただきたいと思っています。
これからのネタとして、歴史の表舞台に出ない地方の人々を対象にしても面白いかもしれませんね。
タグ:新選組!
五十嵐貴久の「天保十四年のキャリーオーバー」 [読書]
七代目市川團十郎役に現在の十一代目市川海老蔵が扮し映像化されるかもしれませんね、本書は。
むろん製作は松竹。松竹得意の影が際立つ演出で渋い映像をベースに、ストーリー自体は痛快娯楽時代劇!なんてね。
それにしても本書の鳥居耀蔵は、完全に悪の権化、金の亡者として描かれていて敵役としては申し分ありませんね。配下の蛭仁をはじめとする目明したちもショッカーばりでよい。
それにしても本書の鳥居耀蔵は、完全に悪の権化、金の亡者として描かれていて敵役としては申し分ありませんね。配下の蛭仁をはじめとする目明したちもショッカーばりでよい。
本書のようなストーリーの場合、”悪キャラ”は徹底して悪人でなければなりません。何らかの理由があってやむなく悪に手を染めた(本意じゃないけど)とか、世の中を変えるためには多少の犠牲もやむ得ないとか、そういう中途半端な悪人ではなく、極悪非道でなければなりません。
悪にエッジが立てば善が映える、そう、七代目團十郎が見栄を切れるわけです。
むーん、観たいな、実写版。
土橋章宏の「いも殿さま」 [読書]
土橋先生のことなので、またまた痛快、ジェットコースター小説かと思いきや、本書は随分と落ち着いた内容。
本書の主人公は、江戸時代に実在した井戸平左衛門という人のお話。ちょっと調べてみたらすごい人なんですね。石見銀山周辺の天領を任され、隠居前の一仕事という感じで赴任したものの、銀山は荒れ果て、飢饉に苦しめられた領民が一揆をおこしかねないほど疲弊した土地を支配することになるとは・・・・
領民のために尽くした代官、殿様というお話・・・と書いてしまうときわめて平凡なストーリーに思えてきますが、実際にあった話と聞くと、現実もこんなもんだったのかもしれない、むしろ日常の延長に物語はあるのだろうななんて思えてくるから不思議です。なぜ「いも殿さま」と呼ばれたかは本書を読んでのお楽しみ。
土橋先生お得意のジェットコースター的シーンはむろんあります。影で代官一党を支える存在もいて安心。
著者のイメージから若干の違和感を感じつつ、本作はしんみりと読めました。
佐藤雅美の「怪盗 桐山の藤兵衛の正体」八州廻り桑山十兵衛シリーズ [読書]
これが読み納めとなりました。佐藤雅美先生が昨年亡くなりました。
半次、紋蔵、鏡三郎の各シリーズの新作を楽しみにしてきただけに残念でなりません。
半次、紋蔵、鏡三郎の各シリーズの新作を楽しみにしてきただけに残念でなりません。
2017年頃まで執筆をつづけてこられたようですが、亡くなったことで佐藤先生の「江戸を感じる」作風の新作にお目にかかれなくなってしまいました。
江戸の庶民、桑山シリーズでいえば田舎(主に関東ですが)に暮らしていた農民や無頼の徒も含めた人々の息遣いが聞こえるような作風に魅せられてきました。
最後の作品となった本書、桑山十兵衛の行動力は気のせいか他のエピソードよりも際立っていたような気がします。もう一度、他のシリーズも含め読み直してみたい気持ちになりました。
馳星周の「少年と犬」 [読書]
本ブログ、記念すべき1000本目の投稿は「少年と犬」、直木賞受賞作です。
犬好きにはたまらない小説でした。直木賞受賞云々ではなく、主人公?の多聞(作中では時々呼び名が変わりますが・・・)がなんともいえず良い。
うちにもかつて犬がいて(多聞には程遠いお馬鹿な存在でしたが・・・むろん、それが可愛いのですが)、作中での多聞のしぐさやぬくもりはなんとなくわかるような気がして読んでいました。
淡々と展開するストーリーにむしろ好感が持てました。最後のエピソードはちょっと悲しいですが、救われたような気もします。
それにしても馳先生、ホントに犬が好きなんですな。よくわかります。
宮部みゆきの「黒武御神火御殿 三島や変調百物語六之続」 [読書]
聞き手がおちかから富次郎に代わっての新シリーズ。
どちらかといえば深刻になりがちなおちかシリーズに対し、三島屋次男坊の「小旦那」はその生まれ育ちから気さくで軽い感じがして、作品の雰囲気も明るくなり、読者にとっても読みやすいと思いつつ、本書のタイトルになった表題作の部分はやはり重く感じた次第。
家そのものが災い、禍々しいもののステージ、という話は以前にもありましたが、今回のお話は家にこもった恨みの経緯と深みの度合が分かりやすく、かつ怖い。もっとも巻き込まれたほうは迷惑な話ですが・・・
富次郎に代わってのシリーズ、今後どれだけ続くのかわかりませんが、正直、もやもやした気分で読了するのが常。百本そろうところで完結なのでしょうが、なんとか私も付き合っていきたいと思います。
池波正太郎の「雲霧仁左衛門」 [読書]
何度も映像化され、最近ではスピンオフ的にオリジナルストーリーにも広がりをみせる本書。実は数ある池波作品の中で、なぜか本書だけは読んでいませんでした。理由は特にないとしかいいようがないのですが、なぜか今までスルーしてきた・・・中井貴一主演のドラマも続編(・・・NHKで放送されますが、一連の池波作品の映像化は松竹製作がベスト!)のがあるようですし、ここでしっかり読んでおこうということで手に取った次第です。
なんと心地よい小説なのでしょうか。ここで描かれている世界は人と人とのつながりのお話。話としては善悪を超えて雲霧一味と盗賊改方双方の組織がぶつかり合うものであり、組織をいかにうまく回すかという点において、ビジネス書にも引用されそうな組織論のようにも見えますが、その根本にあるのは信頼であり、恩義に報いるために働く個々の登場人物同士のつながりです。
「施されたら施し返す。恩返しです!」とは、どっかのドラマの名言(迷言)として話題になりましたが、まさにこれを地でいくようなお話。先の名言は組織の中で権力を維持するための上っ面の発言ともとれますが(ドラマの中では笑える名言だと思いますけど)、本書の登場人物は命がけで報いようとする。池波作品に共通することですが、その手の発言は重くドロドロしたものではなく、さらりとしている。さわやかでもある。
前編は雲霧一党に、後編は盗賊改方に心情をゆだねつつ一気に読めました。
名著だと思います。
真保裕一の「オリンピックへ行こう!」 [読書]
オリンピックを目指すアスリートのお話がテーマ。最初のエピソード、卓球編は専門用語が多くて正直読みづらかったのですが、なんとか頭の中で映像を浮かべて臨場感を味わった次第です。
印象に残ったのは、ある程度将来を見込まれた卓球選手のキャリア観。多くの選手が、まさに「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」を地で行くらしい。高校、大学でまだ現役を続行している選手の多くはかろうじて”才子”にとどまっているものの、ナショナルチームに入らなければ(あるいは候補にならなければ)いずれはただの人になってしまう。
そんな危機感を抱きながらもが苦しむ様はよく伝わってきました。現実の卓球の日本代表の面々を思い出しながら、彼らも大変なんだろうな~なんて思ってしまいました。
競歩編もなかなかのもの。マイナースポーツといわれる競技にスポットを当てたところ・・・さすがフツーの人をスターにしてしまう真保先生ならではの作品だと思いました。
しかし、まさかオリンピックが延期になるなんて、発刊時(単行本初版は2018年3月)は誰も思っていなかったでしょうね。びっくりです、ホントに。
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