池波正太郎の「雲霧仁左衛門」 [読書]
何度も映像化され、最近ではスピンオフ的にオリジナルストーリーにも広がりをみせる本書。実は数ある池波作品の中で、なぜか本書だけは読んでいませんでした。理由は特にないとしかいいようがないのですが、なぜか今までスルーしてきた・・・中井貴一主演のドラマも続編(・・・NHKで放送されますが、一連の池波作品の映像化は松竹製作がベスト!)のがあるようですし、ここでしっかり読んでおこうということで手に取った次第です。
なんと心地よい小説なのでしょうか。ここで描かれている世界は人と人とのつながりのお話。話としては善悪を超えて雲霧一味と盗賊改方双方の組織がぶつかり合うものであり、組織をいかにうまく回すかという点において、ビジネス書にも引用されそうな組織論のようにも見えますが、その根本にあるのは信頼であり、恩義に報いるために働く個々の登場人物同士のつながりです。
「施されたら施し返す。恩返しです!」とは、どっかのドラマの名言(迷言)として話題になりましたが、まさにこれを地でいくようなお話。先の名言は組織の中で権力を維持するための上っ面の発言ともとれますが(ドラマの中では笑える名言だと思いますけど)、本書の登場人物は命がけで報いようとする。池波作品に共通することですが、その手の発言は重くドロドロしたものではなく、さらりとしている。さわやかでもある。
前編は雲霧一党に、後編は盗賊改方に心情をゆだねつつ一気に読めました。
名著だと思います。
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