宮部みゆきの「黒武御神火御殿 三島や変調百物語六之続」 [読書]
聞き手がおちかから富次郎に代わっての新シリーズ。
どちらかといえば深刻になりがちなおちかシリーズに対し、三島屋次男坊の「小旦那」はその生まれ育ちから気さくで軽い感じがして、作品の雰囲気も明るくなり、読者にとっても読みやすいと思いつつ、本書のタイトルになった表題作の部分はやはり重く感じた次第。
家そのものが災い、禍々しいもののステージ、という話は以前にもありましたが、今回のお話は家にこもった恨みの経緯と深みの度合が分かりやすく、かつ怖い。もっとも巻き込まれたほうは迷惑な話ですが・・・
富次郎に代わってのシリーズ、今後どれだけ続くのかわかりませんが、正直、もやもやした気分で読了するのが常。百本そろうところで完結なのでしょうが、なんとか私も付き合っていきたいと思います。
池波正太郎の「雲霧仁左衛門」 [読書]
何度も映像化され、最近ではスピンオフ的にオリジナルストーリーにも広がりをみせる本書。実は数ある池波作品の中で、なぜか本書だけは読んでいませんでした。理由は特にないとしかいいようがないのですが、なぜか今までスルーしてきた・・・中井貴一主演のドラマも続編(・・・NHKで放送されますが、一連の池波作品の映像化は松竹製作がベスト!)のがあるようですし、ここでしっかり読んでおこうということで手に取った次第です。
なんと心地よい小説なのでしょうか。ここで描かれている世界は人と人とのつながりのお話。話としては善悪を超えて雲霧一味と盗賊改方双方の組織がぶつかり合うものであり、組織をいかにうまく回すかという点において、ビジネス書にも引用されそうな組織論のようにも見えますが、その根本にあるのは信頼であり、恩義に報いるために働く個々の登場人物同士のつながりです。
「施されたら施し返す。恩返しです!」とは、どっかのドラマの名言(迷言)として話題になりましたが、まさにこれを地でいくようなお話。先の名言は組織の中で権力を維持するための上っ面の発言ともとれますが(ドラマの中では笑える名言だと思いますけど)、本書の登場人物は命がけで報いようとする。池波作品に共通することですが、その手の発言は重くドロドロしたものではなく、さらりとしている。さわやかでもある。
前編は雲霧一党に、後編は盗賊改方に心情をゆだねつつ一気に読めました。
名著だと思います。
真保裕一の「オリンピックへ行こう!」 [読書]
オリンピックを目指すアスリートのお話がテーマ。最初のエピソード、卓球編は専門用語が多くて正直読みづらかったのですが、なんとか頭の中で映像を浮かべて臨場感を味わった次第です。
印象に残ったのは、ある程度将来を見込まれた卓球選手のキャリア観。多くの選手が、まさに「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」を地で行くらしい。高校、大学でまだ現役を続行している選手の多くはかろうじて”才子”にとどまっているものの、ナショナルチームに入らなければ(あるいは候補にならなければ)いずれはただの人になってしまう。
そんな危機感を抱きながらもが苦しむ様はよく伝わってきました。現実の卓球の日本代表の面々を思い出しながら、彼らも大変なんだろうな~なんて思ってしまいました。
競歩編もなかなかのもの。マイナースポーツといわれる競技にスポットを当てたところ・・・さすがフツーの人をスターにしてしまう真保先生ならではの作品だと思いました。
しかし、まさかオリンピックが延期になるなんて、発刊時(単行本初版は2018年3月)は誰も思っていなかったでしょうね。びっくりです、ホントに。