吉川永青の「誉れの赤」 [読書]
戦国の世にその名を知らしめた「赤備え」。武田軍団最強部隊として恐れられたものの、武田家の衰退とともにその命運はつきたかと思われました・・・・それが井伊家の赤備えとなり復活するまでのお話です。
主人公は成島勘五郎という名もなき武士。幼馴染で百姓ながら成島家の郎党的立場だった藤太の二人の後半生を描いています。武田の赤備えを率いた山縣やそれを引き継いだ井伊といったそれなりに歴史に名を遺した人たちからの視点ではなく、軍団を構成する一兵卒の立場から描いた点が面白い。
武士としての対面、生き方にこだわり、その証として赤備えの一員であったことにこだわった勘五郎と根っこは百姓にあって、山縣昌景や石川数正といった「上司」に目を掛けられ、上司を慕うことで赤備えとしての役割と存在することに意義を感じていた藤太は、井伊直政というある種の破天荒な上司を持つにいたり袂を分かつことになります。
赤備えとはこうあるべき・・・という生き方と、赤備えに所属したことで得た生き方・・・このせめぎあいだったのではないかと思います。
関ヶ原の合戦で井伊の抜け駆けの際の戦闘で、一方の主人公である勘五郎は最期を遂げ物語は終わりますが、数千人(諸説あり)にも及ぶという兵卒の骸にたたずむ藤太の姿が目に浮かぶようです。歴史とはこうした名もなき人々によって作られているとしみじみ感じさせられる作品でありました。
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