藤沢周平の「麦屋町昼下がり」 [読書]
先日、義父母の一周忌で山形県鶴岡市に行ってまいりました。鶴岡市は本書の原作者藤沢周平先生の故郷でもあり、開館間近の藤沢周平記念館を訪ねたこともあります。
藤沢作品、特に海坂藩シリーズを始めとする地方の藩を舞台とした作品群の舞台設定は鶴岡市をモデルにしたらしいという話がありますが、その気になって鶴岡の町を歩くと作品の世界に引き込まれるような感覚になります。
現在の鶴岡市役所がある場所がかつての鶴ケ岡城のあったところで、藩校致道館などの史跡を始めとして、広い敷地内に藤沢周平記念館や荘内神社などが点在し、風情があって、かつ落ち着きのある雰囲気となっています。
海坂藩作品に出てくる五間川は鶴岡市内を流れる赤川がモデルなんて話を聞くと、城から川までの実際の距離感が感じられ、ィクションでありながらノンフィクション作品として作品内容を感じることができてファンにとってはたまりません。藤沢作品ファンは絶対に鶴岡を訪ねるべき、なんて思ってます。
さて、前置きが長くなってしまいました。本書は表題作の他、「三の丸広場下城どき」、「山姥橋夜五ツ」、「榎屋敷宵の春月」の短編4作が収録されています。いずれの作品も地方の小藩の権力争い、派閥抗争をベースに、それに巻き込まれていく主人公たちの物語で、秘剣シリーズほどの迫力はありませんが、いずれも立ち回りがあってチャンバラ好き?にはたまりません。もっともこうした短編に描かれる作品の多くは、現代でいうところのサラリーマン小説のようでもあり、サラリーマン小説の巨星となった池井戸潤先生に通じるものがある、なんて思ってます。権勢欲や出世欲がからむと面白い小説になるのは今も昔も変わらないということでしょうか。
本書では「榎屋敷宵の春月」が秀逸でした。夫の出世をフォローする妻が主人公。女の友情、藩内でおきている不正にからむエピソード、兄妹愛、立ち回り・・・主人公田鶴様の八面六臂の活躍、読ませます。
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