岩井三四二の「光秀曜変」 [読書]
明智光秀はなぜ信長を殺したのか?これは日本史における最大級の謎とされています。朝日新聞社が新たに刊行した週刊新発見!日本の歴史 の創刊号によると、信長の四国征討戦略に対する意見の違いが光秀と信長の間に埋めようのない亀裂を生じさせ、本能寺の変に至ったという説を披露しています。
本書もそうした光秀の真実!を主題した類の小説ではありますが、現在、判明している光秀の行動と行動の間を小説として埋めていくのか、それとも学術的に埋めていくのかによって、随分とその印象は変わってくると思われます。
本書の説によれば光秀は何らかの病気、精神を病んでいた、アルツハイマー的な病気にかかっていたのではないか?という説をとっています。
実は信長が一番信頼していたのは光秀ではなかったか、というのは、最近の信長と光秀との関係性を語る上で、比較的多い説なのではないかと思っていますが、そうした信長の気持ち、意図を全く理解していなかったのが光秀であった、という流れは光秀の生まれや育ち、性格という部分に落とし込むことで成立し、納得できる。が、一方で、武将としても知識人としても優秀な光秀がなぜ勝算のない信長暗殺に動いたのかは合理的には説明がつかないわけです。
本書では病気であったことで、合理性を失った光秀の行為として理解されていますが、物語としての面白さは別として、ある種、納得できない部分もあるわけです。
ということはさておき、本書の構成は、本能寺の変の前と後で光秀を取り巻く人々のある種群像劇的様相のもとで構成されています。光秀本人、光秀の宿老たち、ライバル・・・それぞれが本能寺の変を挟んで前後の心境や行動を描いている。最近の岩井さんのあるじは秀吉やあるじは家康などの「あるじシリーズ」と同じ。主人公の取り巻きの連中の心情をまじえることで、より客観的な雰囲気を醸し出す。ノンフィクションながら、この試みによって、お馴染みの歴史上の人物たちのいろいろな側面がみえて面白い。新鮮な気持ちで読むことができました。
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