佐藤雅美の「八州廻り桑山十兵衛」シリーズ

佐藤雅美は、直木賞受賞作の『恵比寿屋喜兵衛手控え』に代表されるように、江戸時代の司法モノを得意とする作家です。『八州廻り桑山十兵衛』シリーズは、関東取締出役、通称八州廻りの桑山十兵衛が主人公の連作集です。火盗改めの鬼平犯科帳や遠山の金さんに出てくるような派手な事件がテーマではなく、関東一円で起きているもめ事などを地道に解決していくという地味なシリーズですが（地味とはいっても、立ち回りもあり、桑山はそれなりの使い手、配下の粂蔵、五平衛も味があって時代モノのツボはちゃんと押さえています）、当時の（設定は江戸時代後期、1830年前後）訴訟制度などが物語の中で詳しく紹介されていて、なかなかにおもしろい。江戸時代の庶民が抱えている悩みやもめ事、背後にある制度の矛盾や裁判に至るまでの経緯などは、意外に現代に通じるものがあります（もっともフィクションですが）。同じ佐藤雅美になる連作集、『縮尻（しくじり）御家人拝郷鏡三郎』シリーズ同様、江戸の市井モノとして新作が楽しみな作品です。
※桑山十兵衛シリーズがテレビ化（テレビ朝日系）されました。北大路欣也が桑山十兵衛役。今まで二度ほど拝見しましたが、あまりに北大路演じる桑山が"立派"過ぎていささか原作のイメージと異なります。作品としてはよく出来ているとは思いますが、原作にある桑山のいい加減さがもっとあってもいい。まあ、原作とのイメージの相違は映像化にはつきものですが・・・

花輪茂十郎の特技―八州廻り桑山十兵衛

• 作者: 佐藤 雅美
• 出版社/メーカー: 文藝春秋
• 発売日: 2005/04
• メディア: 単行本