佐々木譲の「抵抗都市」 [読書]
もし、日露戦争で日本が負けていたら・・・おそらくは世界史、とくにアジアの歴史は今とは相当異なることになっていたかもしれません。その後の日中戦争、太平洋戦争もなかったかも。第二次世界大戦があったとしても、その様相は違った展開になっていたかもしれません。
本書はその「かもしれない」歴史下におけるお話。日露戦争は日本の勝利ではなくロシアが戦勝国という形で終息し、ロシア主導による同盟、外交権と軍事権をはく奪された保護国という立場に貶められているという設定。
進駐軍ならぬ統監府というロシアの出来先機関が日本を支配。日本、東京のロシア化が着々と進んでいる明治期から大正期という時代設定です。
肝心のお話は殺人事件をおう警視庁の若手刑事と所轄のベテラン刑事の物語。事件の真相を追う過程で、ロシアとの関係を維持しようとする勢力と日本の独立を果たそうとする勢力とのせめぎ合いが事件の背後にあることが明らかになってきます。
殺人犯をとらえるという絶対的な正義と、国を維持(日本の主権を回復しようとすることも含め)しようとする正義のとの対立が、物語の背景を貫くテーマだと思いますが、いずれの権力によっても一方が他方を押さえつけるという構造は全く不幸であるということを感じさせる展開でありました。こういう設定がドラマを生むということなのでしょう。
物語は含みを持たせた形で終わっています。この時代設定のまま数年後の”占領下の日本”で続編があるのでしょうか?
有栖川有栖の「狩人の悪夢」 [読書]
文庫化にあたってのあとがきと宮部みゆきさんが本書について書いた書評を読んで、なるほど!と思いました(決して夏休みの読書感想文の宿題であとがきを引用するということではなく・・・ちゃんと最初から最後まで読みました!w)。
火村英生の冷徹ともいえる解き明かしと情緒的に事件を追うアリス。このコンビの醸し出す雰囲気がリズムとなって複雑怪奇な事件を解決していくというパターンは、派手なアクションなどはないけれど、ある種痛快であり、本シリーズの魅力だと思っています。
そんな印象を漠然ともっていた私にとっては、宮部さんが寄せた書評は”目からうろこ”でした。動機を考えずに事件を解く・・・火村の事件に対する姿勢や態度がシリーズの肝になっていたこと。なるほどね、という感じです。
本書はある意味で密室物。被害者の背景はわからないまま猟奇的ともいえる方法での殺人や中途半端な遺留品の存在など、読んでいてまったく見当のつかない展開でしたが・・・・
舞台は限られた空間ながら、物語の導入で語られている今回のストーリーの背景を彩る世界観(ハリウッドで映画化など)が、最後までひきつける装置になっていたような気がします。
火村シリーズも25年だそうです。ながいですよね~
呉座勇一の「陰謀の日本中世史」 [読書]
前回の投稿から1か月以上空いてしまいました。もう7月ですよ。新型コロナウイルスの感染拡大によるイレギュラーな日常により、仕事はもとより普段の生活もペースが完全にくるってしまいました。私にとっては月に2-3冊の読書タイムがとれなくなってしまい、必然的にブログからも遠ざかってしまったという感じです。
そんなイレギュラーな状況下でなんとか読んだのが本書です。
保元・平治の乱、源義経の悲劇、鎌倉将軍・幕府内の権力闘争、南北朝・観応の擾乱、織豊から徳川政権移行時に至る一連の歴史的出来事にまつわる陰謀論を作者が淡々と冷静に否定していく・・・呉座先生の冷徹かつ鋭いつっこみは、なるほどっと納得させられる反面、長年、小説やドラマ、映画などに親しんできたものには少々残念な結論に導かれる結果となっています。
逆にいえば陰謀ありきの歴史が圧倒的に面白く、ビジネスの社会でも、ある種のストーリーが教訓だったりする訳です。
まっ、歴史の教訓を現在に活かすという観点からすると、陰謀論のような出来事の背景を盛った話は極力排除したほうが良いのかもしれません。恣意的、意図的に解釈されないためにも。
作者の「 応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書) 」よりも圧倒に読みやすい。歴史好きの人には記憶を整理しつつご自分の歴史観を新たに持つうえで良書だと思います。