木下昌輝の「戦国十二刻 始まりのとき」 [読書]
なるほど、良い企画だと読んでいて思いました。戦国時代の出来事の十二刻前からのカウントダウン。ほぼ一日前からの関係者の動きを物語にした内容。あの日、あの時・・・右か左か、進むべきか引くべきか・・・その場、その時、人はいろいろな決断を強いられますが、本書はそうした歴史上の人物たちの決断、行動にいたるまでの物語をみせてくれます。
応仁の乱の混乱の中で、その後の登場人物たちにつながっている、というのもなかなかなもの。
いずれの短編もそれなりの緊張感を醸し出し面白く読ませていただきました。
島田荘司の「盲剣楼奇譚」 [読書]
大作です。金沢を舞台に、現在、戦前戦中、江戸時代初期の三つの時代のストーリ―が収められています。
正直、1回読んだだけでは三つの時代の関連性がよくわからないと思いました。現在において事件が起きて、その事件そのものはちゃんと最後に解決します。その真相も理解できるのですが、ストーリーの大部分を占める江戸期の話がどのようにラストの解決編と関連づけられているのかよくわかりません。
廓が舞台であり、そこで働く女性とそれに絡む男性、時代の背景からある種運目づけられたそれぞれの人生。登場人物たちはいずれも歯車がくるったがゆえにとてつもない厳しい人生を余儀なくされる・・・
物語のテーマはなんとなく理解できるのですが、細かいつながりのとこですっきりとこない・・・それぞれの時代の物語自体、きちんと成立しているので読む分には何の問題もないのですが・・・機会があったらもう一度読み返してみたいと思います。
野口卓の「大名絵師写楽」 [読書]
写楽は誰だったのか?新説である。蜂須賀重喜、阿波徳島蜂須賀家のれっきとした殿様、お大名である。ウィキペディアによれば写楽は、蜂須賀家お抱え能役者、斎藤十郎兵衛というのが有力だとか。本書は能役者を抱えていたほうが写楽だという説を展開している。
結果論として、写楽が大名(本書では隠居後)だった、というのは歴史の現象面では辻褄があうような気もする。写楽を生んだ仕掛人、蔦屋重三郎が主人公として登場するが、写楽を生み出したのが重三郎なら、世の中から消し去ったのも重三郎。彼の思惑が写楽の運命を左右し、今現在も謎の人物として歴史に残す結果となっている。まったくの小説、フィクションとはいえないストーリーで説得力がある。写楽登場の「事件」にまつわる顛末を一定の緊張感をもって読ませる作品だ。「写楽は蜂須賀のお殿様」という説、広がると面白いなぁ。