岩井三四二の「絢爛たる奔流」
地味なタイトルです。登場人物も地味といえば地味。角倉了以という人の半生を描いた作品です。
京都の人はご存知の方が多いかもしれません。高瀬川を開削した人です。
角倉一族は土倉経営で財を成した一族で、了以はその分家筋にあたる人物。大堰川、富士川などの開削に私財をなげうって奔走し、さらに高瀬川の開削したことで、桃山時代から江戸初期における物流革命の先鞭を切った人といえましょう。
いまでいう公共工事ではありますが、当時の政府(時代的には関ヶ原の合戦から大坂冬の陣、夏の陣を経た辺り)がお金を出すわけではなく、「川を開削したいのですが、よろしいでしょうか?」という奇特者の申し出を、ありがたくも偉い人が許可を出す時代。このころでは豊臣秀頼が生きていたにもかかわらず大御所(家康)に許可を得ています。
当時の感覚では豊家はもう終わっている、という感覚が利にさとい商人たちにはわかっていたのかしらん、などと本編に関係のないところで感心したりしながら読みました。
しかし、こうしたことを成し遂げる人物というのは、常人、凡人には計り知れないバイタリティがあるもので、本書でいえば、主人公了以の息子である与一の常識的判断がまっとうだと思ってしまいます。もっともその与一も当時としては藤原惺窩、本阿弥光悦、俵屋宗達など一流の学者、文化人との付き合いがあったというからすごい。
あの父にしてあの子あり、という感じですな。
ただただその勢いに圧倒されつつ読了。
評伝としておもしろく読ませていただきました。
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