鏑木蓮の「京都西陣シェアハウス~憎まれ天使・有村志穂」 [読書]
京都の京町屋というのは間口は狭いものの、奥行きがあるという独特な造りだそうですね。こうした構造は京都の街の成り立ちや歴史から生まれたもののようですが、現在の一般的な間口のイメージからすると相当に変わった形だとは思います。いわゆる「うなぎの寝床」のような空間を想像してしまうのですが、実際に住んでみるとなかなか快適らしい。一度はその佇まい、空間に触れてみたいと思っています。
本書を手に取ったのはそんな思いがあったからかもしれません。タイトルから何となく中身(ストーリー)は想像できたものの、中身というよりは京町屋が舞台、という点に強く惹かれました。
さて、肝心のお話ですが、一言でいうとシェアハウスに改造された京町屋に居住している主人公含む4世帯の訳あり話、ということになります。交通事故の加害者夫婦、旅行会社の社員で上司と不倫の関係にありながら不正に加担し、悩んでいるOL、かつて学生時代にこの京町屋に下宿していたことがあり、事情があって定年後に舞い戻ってきた老人とその妻。同居であるこれらの人々のそれぞれが抱える訳あり話を主人公有村志穂~就職試験77連敗の女子大生が、傍若無人といえる態度で介入していきます。シェアハウスといえば聞こえは良いですが、なにせ作りが古くプライバシーもなにもあったもんじゃない、という環境が舞台として機能している点で、この小説は成立しています。
志穂の性格はともかく、志穂の行動の動機は今一つ納得にかける展開ではありましたが、まあ、おもしろく読めました。最初のエピソード、交通事故の加害者夫婦の話が一番好きだったかな。
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