赤城毅の「氷海のウラヌス」 [読書]
ニューヨークやロスアンゼルスでタクシーに乗ると「あんた日本人かね、今度やるときゃイタリア抜きでやろうぜ!」というやり取りがあるとかないとか。ドイツ系アメリカ人が日本人に対して親しみを表す逸話、ジョークだと思うのですが、勤勉で真面目という共通項は日本とドイツにはあってもイタリアにはないということでしょうか?戦後70年近くになろうとする現在においても、ドイツに対しては親近感というか同じ匂いのする国という感じがします。イタリアはベルルスコーニ前首相のパフォーマンスの通り、やはり今でも手を組むのは難しい・・・もっとも第二次世界大戦においては、日本もドイツも戦争という解決の手段としては最も愚かな方法を選択し、周辺国はもとより自国民すら不幸のどん底に追いやったという点で、共有したくない過去を背負ってしまいました。
本書はその日独伊三国同盟が結ばれ、太平洋戦争開戦間近、まさに前夜において、ヒトラーへの特使として派遣された二人の日本海軍の士官が、ドイツの仮装巡洋艦に乗って北極ルートを巡っていくというお話です。ドイツから日本、日本からドイツという人の行き来は大戦中あったと聞きますが、本書の物語が史実かどうかは別として、軍事エンタテイメントの面白さは十分といえます。日本人、ドイツ人としての矜持というか、その辺の雰囲気が良く醸し出され、戦争という異常な状況の中で育まれていく友情や感情といった展開は、ありきたりの物語であるようで、読者に素直に読んでもらうのは難しいこと。そういう意味で赤城さんという作家は実にうまい人だと思います。赤城さんの作品、お勧めです。
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